クラウドファンディングが満たさないといけない法規制は意外とある。

前のエントリ、前の前のエントリと、つづけてクラウドファンディング「いしわり」について書いてきましたが、今回もクラウドファンディングに関する話です。ネタ元としては基本的に「いしわり」について書いていますが今回はそこに限った話ではありません。

クラウドファンディングは「通販サイト」の一形態である。

クラウドファンディングには3つの形態がある、というのは「クラウドファンディングとは」みたいなワードで検索するといっぱい出てきます。どこかがネタ元なのかな、とは思うんですがその辺を掘り込んだりはしません。

  • 「寄付型」
  • 「購入型」
  • 「投資型」

の3つがあって、でもほとんどの人が認識しているのは「購入型」のクラウドファンディングだと思います。寄付型ではウリを見せることがなかなかうまくいかないのと、寄付にはある一定以上は税がかかるから。投資型がなぜ流行らないかというと、金融商品取引法に基づいて、第2種金融商品取引業の登録が必要となるから。

対して「購入型」は、基本的に通販と同じやり方でサイトを構築することができますし、法的な部分も通販サイトと同じものが適用されることが考えられます。

特定商取引法における通信販売の定義が「通信販売」とは、販売業者または役務提供事業者(※1)が「郵便等」(※2)によって売買契約または役務提供契約の申込みを受けて行う商品、権利の販売または役務の提供のことをいいます。

http://www.no-trouble.go.jp/search/what/P0204003.html

ここにある通信販売の定義、そのまま「購入型」のクラウドファンディングに当てはまりますよね。

信販売なら、特定商取引法が必須になるはずだが

そんなわけで、「いしわり」にかぎらず、大体どこのクラウドファンディングにも「特定商取引法に基づく表示」というやつがあります。「いしわり」の場合はここ。どこにでもあるやつですが、まあクラウドファンディングならではのことが少々書いてあって、そこが気になるといえば気になります。
ついでにいうと、ここ「いしわり」にある14*1のプロジェクト、代表者の書かれているプロジェクトも多いのですが、それがきちんと「特定商取引法に基づく表示」になっているかというと若干微妙ではあります。

まあ、このへん解釈が微妙なようなのです。

また、購入型の場合は、以下の点に注意が必要です。

誰が売主となるのかにより(通常は資金調達者自身と考えられますが、スキームの法的構造によっては、プラットフォームの提供者が売主となる可能性もあります。)、購入対象に関する責任の所在が異なることになるため、スキームの法的構造を吟味する必要があること。例えば、以下に述べる責任の所在や規制を受ける者が異なることになると考えられます。

クラウドファンディングの法規制(基礎編)

つまり「いしわり」をはじめ多くのクラウドファンディングでは、サイト運営者が売主であるとして「特定商取引法に基づく表示」がされているのですが、実際出資者にとってはどうでしょうか?件のサイトには続いてこうもあります。

  • 売買であることから、売主には瑕疵担保責任等の購入対象に関する責任が生じること。
  • 瑕疵担保責任については、完全な免責を定めることは、資金提供者が一般消費者であることから消費者契約法上難しいと考えられ、責任の内容については慎重な検討が必要となること。
  • 特定商取引に関する法律に基づく表記等の、いわゆる特定商取引法による規制を受けること。
  • 購入対象と対価のバランスが取れていない場合は、単なる贈与として、(3)寄付型の法規制で述べた点と同様の税務上の問題が生じる可能性があること(購入型ではモノを販売するだけでなく、資金調達者の人と握手する等のサービス提供という形態もあり、特にサービス提供の場合は対価とのバランスに注意が必要です。)

これらの責任をプラットフォーム提供者がきちんと取れるのかどうか。取れないなら、プロジェクトの発案者も売主という意識を持っていただく必要があります。
実際、「いしわり」では、「特定商取引法に基づく表示」内で、

リターン購入の方法 本サイトからのお申込みのみとなります。これ以外の方法により、プロジェクト実行者にリターンの予約購入を申し込んだ場合は、当社は一切関与せず、責任を負いかねます。ご了承ください。
リターンの引渡時期 各プロジェクトの募集期限までに目標金額が集まった場合、プロジェクトは成立し、リターンを受ける権利が発生します。プロジェクト実行者は集まった資金を元手にリターン(商品・サービス)を支援者(協力者)に提供する義務を負います。 リターンの引渡時期は、各プロジェクトの記載に準じます。
(一部抜粋)

特定商取引法について | いしわり−岩手をもっとおもしろく! 岩手発のクラウドファンディング

とあって、自分の及ぶところの責任の限界と、プロジェクト実行者への義務を明記はしています。
ところが利用規約では、

当団体は、プロジェクトの支援金額が募集期間中に目標金額に達すること、プロジェクトが実現すること、及び実行者がプロジェクト実行資金を支払った協力者にプロジェクトページに記載されている条件でリターンを提供することを保証するものではありません。

利用規約 | いしわり−岩手をもっとおもしろく! 岩手発のクラウドファンディング

自分が売主なのに、「記載されている条件でリターンを提供することを保証するものではありません。」と言ってしまうのはいささか無責任ではないかと思うのです。たぶん「いしわり」が売っているのはプロジェクト発案者へのサイト掲載手数料(成功報酬)だけなのかもしれません。しかし、それを言うならプロジェクトの実行者にも「特定商取引法に基づく表示」が必要じゃないか、いちおうそうは言っておきたいと思います。もしそうでないなら、クラウドファンディングの出資者は通信販売の買い主じゃない、ということになってしまいまして、仮にクラウドファンディングが「購入型」を標榜していても実態は「寄付型」「投資型」となってしまいまして別の意味でややこしくなりますし、「購入型」クラウドファンディングは「通信販売」の一形態ではない、となれば以下の話は有効ではなくなるので。
ちなみに例の「マルカン大食堂 運営存続プロジェクト」のプロジェクト実行者「上町家守舎」のユーザーページは今のところそういう内容にはなっておりません。

さて、クラウドファンディングが「プロジェクトを実行するために高めの商品を後払いで買う」性質のものだとすると、通信販売に課される法的制約はそれだけに留まるものではないのです。

信販売は、特定商取引法だけで規制されるものではない

例えば、お礼の品が中古品だった場合、「古物商許可証」が必要になります。幸いにして「いしわり」には中古品をお礼にしているプロジェクトはないようですが、古物商許可証の番号と販売責任者名の掲示をガイドラインに明示しているクラウドファンディングもあります。

で、通信販売でもう1つ大事なのが「酒類販売免許」。特にウェブですから「通信販酒類小売業免許」が問題になります。

最大の関門「通信販酒類小売免許」

昔は酒類販売免許を取るのは大変なことでした。特に酒類には国税がかかりますからね。今は「通信販酒類小売業免許」が前に比べれば比較的楽に取れますが、それだって「比較的」でしかありません。そもそも通信販酒類小売業免許で売れる酒類ってけっこう限定されるのですがここではその話はあまりしません。クラウドファンディングのお礼品がどこにでもある酒じゃそもそもダメですからね。
で、「いしわり」には利用規約にもよくあるご質問にもこれ関係の話が全く書かれていません。おそらく売主としてそこへの意識が全くなかったのでしょう。それでも開設から1年はうまくいきました。プロジェクト出資のお礼の品に「酒類」が含まれなかったからです。では今はどうか、というと、募集中のプロジェクトを含め2つあります。1つは「手作りワイナリーをみんなに育ててもらうために、幻の「ゼロ号」を届けたい!プロジェクト」。亀ヶ森醸造所というワイナリーによるプロジェクトです。こちらは今年の6月に酒類等製造免許を取得しているため、自分の作った酒については特に小売業免許を取得することなく売ることが可能です。

もう1つは、例の「マルカン大食堂 運営存続プロジェクト」。このプロジェクトの出資に対する3万円以上の全てのプランに「マルカン応援ワイン2本セット」が含まれています。もちろんこの発案者である「上町家守舎」およびその関連団体である「花巻家守舎」は酒類等販売免許を少なくとも今年になってから取得しているわけではないようです*2

もちろん、一般的な通販と違って、クラウドファンディングの場合、商品が届くのはお金を払った直後ではありません。法律には疎いのですが、商品のお届け予定日である「新マルカンビルのオープン1ヶ月前」までに酒類等販売免許を取得すれば問題はないのかもしれません。まあ危ういといえば危ういです。

そしてこの両プロジェクト、酒を売るのにもう1つ大事になることを守っていません。「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」というやつです。

「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」とは

広告で「お酒は20歳になってから」とかスーパーやコンビニなどで「20歳以上の年齢であることを確認できない場合にはお酒を販売しません」みたいな表示を見たことがありますよね。あれは国税庁の告示に基づくものです。くどくど言うより国税庁の当該ページがわかりやすいのでリンクを張っておきます。
当然のように通信販売にもこの表示基準があります。

(1) 酒類に関する広告又はカタログ等(インターネット等によるものを含む。) 「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」又は「未成年者に対しては酒類を販売しない」旨
(2) 酒類の購入申込者が記載する申込書等の書類(インターネット等により申込みを受ける場合には申込みに関する画面) 申込者の年齢記載欄を設けた上で、その近接する場所に「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」又は「未成年者に対しては酒類を販売しない」旨
(3) 酒類の購入者に交付する納品書等の書類(インターネット等による通知を含む。) 「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」旨

未成年者の飲酒防止に関する表示基準を定める件

これを全て守る必要があります。とはいえ(3)はお礼品を送る前に行えばいいものなのでここでは外しまして、(1)と(2)。(1)については、各プロジェクトのページを見ればわかるのですが、全くそれは表示されていません。(2)の申込画面はクレジットカード決済直前までたどりましたが、やはり全く表示されていませんでした。

ちなみにこれは告示なので、守っていなかったからといってすぐ罰せられるわけではありませんが、

重要基準に違反していると認められるときは、酒類業組合法第86条の6第3項、第86条の7及び第98条第2号の規定により、重要基準に違反している個々の酒類業者に対して、その基準を遵守すべきことを個別に指示した上で、指示に従わなかった場合に命令を行い、更に、命令に違反した場合に罰則を課すこととされています。

「酒類の表示の基準における重要基準を定める件」の概要

となっていますので、免許を持っているところも早めに対応したほうがいいと思いますよ。

*1:2016年9月6日現在未達成のプロジェクトを含む

*2:国税庁のページにその表記が見つかりません