スクエニは「ハイスコアガール」でのSNKゲームを「引用」と主張できる。

ゲーム画面を無許諾で利用しているということで、「ハイスコアガール」を発行しているスクウェア・エニックスSNKプレイモアに告発されたみたいですね。

捜査関係者らによると、著作権侵害の疑いが持たれているのは「月刊ビッグガンガン」誌上で押切蓮介氏が連載している「ハイスコアガール」。府警は押収資料の分析を進め、会社の担当者や作者らから今後任意で事情を聴く方針。

 スクウェア・エニックスはこの漫画の中で、ゲームソフト販売・開発会社「SNKプレイモア」(大阪府吹田市)が著作権を持つ対戦型格闘ゲームザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)」や「サムライスピリッツ」などのキャラクターを、許諾なしに勝手に使用したとしている。

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朝からこの話題で盛り上がっているのですが、この案件非常に興味深いです。なぜかというと上記の通り、刑事事件になっちゃったからです。
何らかの形で告発の取り下げがなければ、そのままこれ争う形になりますから。

二次的使用と、引用。

上記の記事や「ハイスコアガールがSNKプレイモアから承諾を得ていなかった件で電子書籍版はどうなる? -最終防衛ライン3で使われているツイッター画像などを確認すると、ハイスコアガールでは、使用した各ゲームの(c)表記を、Special Thanksとして巻末に表記しているようです。それが許諾を得ていると誤認させたという話もでているのですが、まずそこが微妙。

確かに、許諾を得ているという印でそういうことを書く場合もありますが、別に(c)は許諾済みを示す記号じゃない。あくまで一次著作者側が自分の著作であることを主張するために行う表記でしかありません。しかも、基本的に今はこの表記は主張のためには不要とされている。今でも使われているのは「なんとなくかっこいいから」的なものなのです。

ゲーム画面についても「90年代のゲーム事情をベースに描かれたフィクション」ということを考慮すれば、使用の必然性はあります。あとは、使われているキャラクタやゲーム画面が、明確にゲームのキャラであるとわかるように描かれているか。ゲーム画面のほうが本編より多く使われたりしていないか。SNKのゲームが出たあたりからのこのコミックは持っていないので詳しい検討は避けますが、争うなら「引用」の範疇で争えないこともない案件だと思うのです。

今後、争われるのか、争われないのか。

個人的には、この案件、著作物の二次利用と引用のより詳しい線引きがそろそろ欲しいところですし、スクエニは争うだけの体力のある会社だと思うので全力で争ってほしいのですが、争われるかどうかはわからないところがある。

まず、刑事事件と言うことで家宅捜索まで行われちゃいましたが、著作権侵害親告罪なので、SNK側が告訴、告発を取り下げれば先が続かない。むしろこれ、今後の交渉のために行われた告発じゃないのかな、と思ったりするのはうがち過ぎでしょうか。

そのうえで、スクエニ側もドラクエ、FFはじめ紙媒体でも利用できるゲームコンテンツを山ほど持っている。争い方によっては自分にもこの線引きが降りかかってくる可能性がある。

そうなると、何らかの手打ちで済ませる可能性は十分あります。けっこう賭け金上がっているとは思うんですが。

何にせよ、今後の情報に注目です。

追記

ハイスコアガール| ビッグガンガン | SQUARE ENIXSNKではなくカプコンのスト2を話題にした1〜3話を立ち読みできます。ガイルやダルシムのキャラクターの絵が描かれているのが確認できるかと思います。これは、引用にあたるでしょうか。

ゲームのキャラクターではありませんが、サザエさん事件 の判例や Q7.キャラクターの著作権法上の取扱いについて | 西村&宮永商標特許事務所 などから判断する限り、キャラクターと同一であると判断できれば複製権侵害と言えるでしょう。

ハイスコアガールがSNKプレイモアに承諾を得ていなかった件まとめ - 最終防衛ライン3

なぜそこで許諾を得ているカプコンのキャラクターを例にするかなーと思うのですが、たとえば、ガイルや安駄婆が主人公に向かって語りかけたり、画面の中から手を振ったりする場面は明らかに引用の範囲から外れています。立ち読みできる範囲にはそういう絵がほとんどないのですが、これは許諾が必要なケースです。(で、実際刊行の前なのか後か、いつ取られたのかは知らないが、カプコンバンダイナムコからの許諾は取られているらしい)

サザエさん事件は「キャラクターが既存の著作物からのコピーでない場合、著作物として扱われるか」と言う論点で争われた裁判です。結果、ある程度の条件を満たしているキャラクターなら著作物として扱われる、という裁判例となりました。今回のゲームキャラクターもほとんど全てのものはこの範疇にあると見ていいでしょう。

また、コミックスに(c)書きの権利者表記があったことから、コミックを描く側は元が他人の著作物であることを知っていたことになる。他人の著作物を個人的な範疇をこえて無許諾で使用する場合、使うには「適切な引用」か「著作物でないと主張する」かのどちらかになりますが、権利者表記をしたことで後者の主張はできなくなりました。

前述したように、SNKのゲームが描かれている部分の当該コミックは持っていないので、SNKについてゲーム画面以外の使い方がされているかはこちらで完全には判断つきません。が、ストーリー上、SNKのゲームが出る頃にはゲームキャラと会話する必然性が薄くなっていることを前提に、お手元のコミックや電子書籍をごらんになって、SNKのゲームキャラが一人歩きしている使用例があるかどうかをご確認いただければと思うのです。あればそれでおしまいです。争う余地はない。

もしなければ、あとは、ゲーム画面を作中の一部に、ゲームの効果音付きで描いたものが引用に当たるかどうか、で争われることになると思うのです。ここはわからない。全部OKかもしれないし、NGかもしれないし、程度問題で、「空耳」的な使用のほうでは黒になるかもしれない。サザエさん事件では著作物かどうかで争われた裁判で、今回は著作物であることを前提に争われることになります。まあ、企業対企業の案件でどっちも法務がしっかりしているっぽいので、この機会に殴り合って白黒決めて頂きたい、というのが今回の主旨です。