定数削減すると、小選挙区制は2倍までの格差を克服できなくなる。

一票の格差違憲判決が相次いでいる今日この頃ですが、この表題の限界ってどこまで知られているんでしょうか?

まず、一県1区から考えてみる。

わかりやすくするために、日本には2つの県しかないことにします。
ついでに、選挙区も各県に1つずつ。

そうすると、国の議会は総員2名。この2名を各1県ずつから選ぶことになります。

2つの県の人口が同じなら、一票の格差はありません。

2つの県の人口が違う場合、そこに一票の格差が生まれます。

もちろん、人口が2倍以上違うなら、多い方の定数を増やすことになる。
片方の人口が100人、もう片方の人口が200人なら、議員定数を3に増やして、多い方の区割りをだいたい半分に分ける。

理想的に分けられれば、この時点で一票の格差はまたなくなります。
ただし、県の人口が片方の整数倍でない場合は、一票の格差は生まれ続けます。
当然、最大1.99倍近くまではあり得る。

思考実験で県を2つまで減らしましたが、実際には特定の2県を選べば同様のことが言えるので、これは県が47県あっても同じことです。

次に、一県複数区を考える。

一番小さい県が全県区であり得る限り、2倍近い格差を避けられるかどうかは運次第です。これを避けるにはどうすれば良いか。

小さいほうの県にも複数の議員を置けるようにすればいいんです。
一番小さい県に2つの区があれば、1.5倍までの格差は理論上は吸収できます。

ちなみに、格差を理論上1.2倍までに押さえるためには、一番小さい県に5つの区が必要です。

これを日本に当てはめると、一番有権者数の少ない鳥取県が約50万人ですから、比例区なしで1区当たり10万人の有権者を抱えることになる。議員数は比例区なしで1000人必要になりますね。

実際には衆議院小選挙区議員定数は300人です。3分の1以下。鳥取県は2区に別れている。つまり、県選出の議員は2名。1.5倍までの格差なら理論上吸収できる、はずなんです。

ただ、これ以上小選挙区の定数を削減すれば、これまでの推論を踏まえれば格差是正は運任せになってしまう。近頃定数削減、定数削減と言われていますが、削る検討がされているのが比例区ばかりなのは、この点もあるのかな、という気がします。

理論上うまくいくことが現実にいくとは限らない。

ところが、実際には日本の小選挙区の格差は1.5倍どころか、2倍を超えていた。今度の0増5減案でもギリギリ2倍弱だそうです。なぜ理論通りにうまくいかないのか。

選挙区は、原則的に飛び地を作れないだけでなく、できるだけ実際の生活圏に即した区割りを作る必要があるからです。

また、実際の選挙に関する作業は市町村単位で行うことになる。市町村界を無視した区割りはその点でも作りにくくなっているのです。

さらに、その市町村が平成の大合併で数を減らしている。こちらの合併が意外と生活圏を重視せず行われた面もあるため、逆に市町村界を無視した区割りがしやすくなったこともありますが、まあそれをやってしまえば少し珍妙な区割りになる。旧市町村界ならともかく、実際に番地単位で区割り変更が行われる計画らしいですが、そうなると、選挙公報も配りにくくなるんでしょうね。

結局、市町村合併とか議員定数削減は、一票の格差を広げる方向に働くわけです。

蛇足。

自分の選挙地盤に都合のいい区割りを行うことを、「ゲリマンダー」っていうってことは中学高校の公民で習ったと思います。
今回の0増5減案は区割り変更も含まれていますので、お近くの選挙区についてよくご確認することをお勧めします。

岩手には地元の町が含まれている選挙区と大票田の選挙区が直線で100km以上、時間にして約3時間近く離れているために、選挙事務所を大票田である村の方に置いている政治家がいらっしゃいます。地元は運動少なめでも得票は堅いでしょうから、その判断自体は間違ってないとは思うのですが、今回区割り変更でこの町と村は別の選挙区になるようです。逆ゲリマンダー的な内容ですね。この方、現職ですが、次回はどちらから立候補するのか、興味津々です。