あれだよね、プロジェクトXとか、最近では日本人ちょっといい話みたいなやつでブログでもよく書かれる、職人がきっちり頑張って危機を回避した系の話ってあるじゃないですか。
今回のやつは「コデラノブログ4 : 日テレ放送事故に関する技術的考察」これ。
この事故のリカバーは、なかなか見事であった。事故から復帰した映像は、CMの途中からではなく、きちんと頭から始まっている。ループが起こった時間を計測すると、ちょうど15秒なので、スポットCMをまるごと1本飛ばして、次のCMの先頭から復帰するような緊急プログラムを動作させたのだろう。
このような判断と操作は、マスタールームを預かる技術者が手動で行なうのだが、こういう事故はそうそうあるものではないので、緊急対策を焦って余計変なことになりがちである。わずか15秒間の判断で、最善のリカバーであったと思う。
カッコイイですね。ふだん自動運転しているところに職人芸を持っている人がいて、それで素人が起こしたなんかのミスを華麗にリカバー。
カッコイイのはカッコイイんですが、本当にそうだったのどうか。
というのは、CMをまるごと1本とばして、次のCMの先頭から復帰するような緊急プログラムなんてものがありえるか、という想定がちょっと無理があるから。
通常、CMって枠単位で管理します。90秒なら90秒、60秒なら60秒。その枠のなかで90秒なら15秒換算で6本、60秒なら同4本。で、それらのIDを本線系で管理するかバンク系で管理するかはまあ思案のしどころで、そこは局によって違ったりする。
ということで、とりあえず、
日テレぐらいのキー局になると、もっとシステムが複雑で、番組用とCM用に別々のAPSを使用し、その上に両方を制御するAPSが動いているのではないかと思われる。
ここまで複雑かどうかはわからないけど、この可能性くらいはある。
たぶん小寺さんなら兼六館出版の雑誌「放送技術」くらいはバックナンバーを読める環境にいるんじゃないかと思うのだけど、それであれば2004年の6月7月号あたりにたぶんその回答がかいてあるはずなので、それ見て答え合わせした方がいいかも。
ところが、以下の想像にはちょっと無理がある。
ここまで番組スポンサーのタイム広告には問題なく切り替わり、スポット広告に切り替わる時に事故が起きたということは、おそらく日テレのマスタースイッチャーには、タイム広告のラインとスポット広告のラインが別々に立ち上がっているのだろう。
というのは、タイム広告ラインとスポット広告ラインを立ち上げる理由がないから。
タイムだろうがスポットだろうが、外に出るのは同じCMであって、それを送出時に分ける必要がないから。
あるとすればネットCM*1とローカルCM*2をわけるくらいか。ただ、今までのことを考えるとこれもやってないような気がする、というか、これきちんとやってればCMのチラ見え問題なんて起こらない*3、という部分からの想像。
で、「日テレ放送事故」で検索して出てきたのが以下のコメント。元が2ちゃんねるまとめブログ*4のコメント欄にあったコピペなので信憑性はアレだけど、
314 :名無しでいいとも!@放送中は実況板で :2009/08/06(木) 17:32:01 id:yf2cqlPQ0
http://blog.livedoor.jp/insidears/archives/51999512.html
日テレにいる知り合いにメールで聞いたらさっき回答があった。
今回の事故はミヤネ屋の15秒ブリッジ部分がYTVのミスでNTV送りを取りっぱなしだったのが原因とのこと。
つまり、DONの最後のフレームがNTV→YTV→NTV→YTV→NTV→YTV→NTV→YTV→NTV・・・のように
無限ループ化してしまって映像と音声が乱れたそうな。
こっちの方が原因としては想像がつきやすい。
ブリッジ、というのはおそらく番組終了直後に次の番組の宣伝目的で「この後は○○」みたいなコメントを放送すること。いろんな経緯で15秒とか30秒とか、CMと同じ長さになっていることが多くて。
そうなると、ミスはYTV側。大胆に想像するとミヤネ屋スタッフ。NTV側はYTVから送られてきたものが何かおかしいな、と思っているうちに15秒経過、自動的にCMに切替、というのが一番あり得る。
つまり、大胆な想像前提だと、
- ミヤネ屋副調整室、送られてきた「思いっきりDON」を選択中。
- 番組終わりで切り替えるつもりが、ミヤネ屋側が思いっきり切り替え忘れ。
- 日テレ側は、ミヤネ屋のブリッジが来ると思ってYTVに切替。
- パニクって、ミヤネ屋側、切り替え戻しに間に合わず。
- 15秒たって、日テレ側が自動的にCM送出に。
もしくは、そこまでいかなくても、
- YTV側、今日はミヤネ屋のブリッジがないと勘違いして、DON後の15秒も日テレを出す設定に。
- 当然、番組終わりでもミヤネ屋のスタジオには切り替わらず。
- 日テレ側は、ミヤネ屋のブリッジが来ると思ってYTVに切替。
- こういう勘違いを15秒で把握して対応するのは難しいのでそのまま15秒。
- 15秒たって、日テレ側が自動的にCM送出に。
こうやって比べてみると、下の方があり得るかな。というか流石にミヤネ屋スタッフ、って言う想像は大胆すぎたか。
どちらにせよ、日テレマスターの職人芸なんてものはそこには全くなくて、ただ単純に通常通りに戻っただけだったりする。いっぽうロシアは鉛筆を使った、じゃないけど、その程度の話じゃないかなあと思う。
つうわけで、こちらの説が正しいという前提で小寺氏の考察を読み返すと、
- 事故は、番組の一番最後から、スポット広告に切り替わった瞬間に起きている。
- →番組の一番最後から、「ミヤネ屋の直前宣伝」に切り替わった瞬間に起きた。スポットCMに切り替わるのはさらにその15秒後。
- 番組スポンサーのタイム広告には問題なく切り替わり、スポット広告に切り替わる時に事故が起きたということは、おそらく日テレのマスタースイッチャーには、タイム広告のラインとスポット広告のラインが別々に立ち上がっているのだろう。
- →CMに事故が起きていないという前提なら、この考察はムダ。
- 日テレぐらいのキー局になると、もっとシステムが複雑で、番組用とCM用に別々のAPSを使用し、その上に両方を制御するAPSが動いているのではないか
- →たぶんそう。ただし、上に両方を制御しているAPSがあるかどうかはわからない。
- 実際に起こった現象だが、これは映像・音声入力が可能で、同時に出力も持つ機器、例えば録画可能なVTRのようなものの、出力と入力を直結した時に起きる、フィードバック。
- →これもポジティブフィードバックで正しい。ただしループは1つの機材だけで起こるとは限らない。
- おそらく番組アーカイブ用に同録していたもの
- →仮に番組アーカイブ用として、それが選択される可能性はほぼないんだけど、この可能性を考慮したことでもう一つ無理な考察を加える羽目になった。
- 実際にスイッチャに立ち上がってきているスポットCMのラインが、違うもの、今回は録画VTRに物理的に差し変わっていた、とも考えられる。
- →無理な考察というのがこれ。放送中にCMラインいじるなんて、よっぽどバカか豪傑かどっちかだと思う。まあ上記可能性を考慮する前提ならこれくらいのポカミスくらいしか可能性がない。
- この事故のリカバーは、なかなか見事であった。事故から復帰した映像は、CMの途中からではなく、きちんと頭から始まっている。
- →CM中に起こった事故じゃないので、頭から復帰するのが自然。
- 筆者ももう放送の現場から10年近く遠ざかってしまったため、全然違っている可能性も否定できない。
- →たぶん、当たっているのは「映像がループした」ところだけだったような気がする。でも、小寺氏はマスター勤務経験がないはずなのに、持っている知識からここまで展開したのは立派。
というか、放送ってあまりに分業化されているうえに情報交換が中途半端にされているので、元放送業界な人が語る内幕って、微妙に想像が混じるんですよね。でもそれを知らない人はどこからが想像でどこからが事実なのか判断する術を持たないわけで。今回は対抗情報があったので表だって否定してみたけど、どこぞの陰謀論とか、否定するだけの材料はないけどそれはねーよ、は結構あるような。
まあ、昔はもっと力があったから、冗談みたいなでかい陰謀を企てる余裕もあったのかもね、ということにでもしておけばいいのか。
追記:
そういえば、今は送出はデジタルアナログ両方だけど、素材ラインはデジタル側1本でやってるだろうな、という類推を前提にしたら、ミヤネ屋スタッフ説は完全に消えるということに気がつきました。YTVマスターの設定間違いの可能性が一番高いかな。
二追:
ニセモノの良心 : 日テレ放送事故に関する技術的考察、多分これが正解のエントリ見ましたが、そんな資料気安くこんなことのために確認しちゃっていいの?という話を除けば2ちゃんねるの書き込みと同じフォーマットだったみたいですね。
たぶんそのうち業界専門紙のどこかに原因が書かれたりするのかなあ、やっぱり。