エマ・ワトソンの言行不一致と福沢諭吉と義塾社中

エマ・ワトソンフェミニズム論と現実の彼氏

最近アンチ・フェミニズムの話がいっぱい流れている中で燃えたらしいのが、「男性性からの開放って言ってる女優エマ・ワトソンが付き合っているのは男らしい男ばかり」という話。

エマ・ワトソン「男女平等、フェミニズムのためには男性にも男性性からの開放を!」
歴代彼氏:
俳優
著名バンドボーカル
リッチな投資家
俳優
有名大学院生
有名大学フットボールスター選手
(中略)
エマの歴代彼氏がこれじゃ、エマの言う「男性性から開放された男」って具体的にどんな人物像なのかさっぱりわからんわ

【共感型炎上】エマの言っていること→男らしい男、女らしい女しか生きられない世界

まあこれに曲解と揶揄の応酬が加わっていい感じに燃えたわけですが。

いちおう言っておくとこれに関する私のスタンスは

エマワトソンの演説は「私はあんたらを選ばないけど別にそれで卑下しなくたっていいのよ」という話でまあ理解はできるがだからなんだとしかならないという話。

エマワトソンの演説は「私はあんたらを選ばないけど別にそれで卑下しなくたっていいのよ」という話でまあ理解はできるがだからなんだとしかならないという話。 - shidhoのコメント / はてなブックマーク

でしかなくて、まあ早い話が「タテマエトークお疲れ様でした」でおしまいの話なんですが、これに蛇足を付け加えておこうと思います。

福沢諭吉と「学問のすすめ

今回この騒動で思い出したのは、

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と言えり。

学問のすすめ

と本人の有名著書の冒頭からぶちかましまくった福沢諭吉でした。言わずと知れた現行1万円札の肖像の人で、慶應義塾大学の初代学長で、表向き同大学には「先生」は福沢先生しかいないことになっている、ということは飽きるほど知られています。

そんなことを言いながら、いっぽうで娘の結婚には「相手の身分が違うから」という理由で反対した「人に上下はないけれど、娘の相手は士族がいいなあ」なんてまとめ方の話題でよく知られてもいます。今回このエピソードの初出を知ろうと「福沢諭吉 娘 結婚」で検索したらこのエピソードが各種人力検索頻出の質問であることがわかってニヤニヤしました。「学問のすすめ」を読むときにはこのエピソード込みで読めというのは学問のすすめ初級者でも知っていることです。

もちろんこれは一端には冒頭の引用の仕方が悪い、つうか世の中の人たちがここから先をだいたい省略するから、という理由があります。この冒頭の文章の続きには

されども今、広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥どろとの相違あるに似たるはなんぞや。

学問のすすめ

とあるわけで、冒頭の文章は本当は「人に上下はないはずだけど、世の中上下がありまくりだよね」と読むのが正解なのですが、だからといって本人による娘の結婚破談エピソードが救われるかというと、その辺学問でなく世襲で決まる身分違いの話に適応するあたり「タテマエトークお疲れ様でした」にしかならないのもしょうがない感じではあるのですね。

そもそも学問とはなんのことなのか。

さて、「学問のすすめ」が何を勧めているのかと言えば、そりゃ書いてあるとおり「学問」を勧めているのでしょうが、じゃあ何が学問か、と言われればその辺調べるならそれを実践している慶應義塾大学を見ればわかるわけです。

慶應義塾は「社中」という言葉をよく使っています。大学にいて教えている人から教わっている人、さらに教わって卒業した人までみんな一緒に頑張りましょうね、という話でありまして、これがまあ周年行事とか新棟建設なんかに絶大な威力を発揮したりすることがよくあるというか公式サイトにはそんな話が山ほど書かれているのですが、そのつながりを作ることがたぶん学問なんですね。

実際に三田閥とかいってOBが山ほど集団になってるところもありますし、OB会が地域のつながりになっているところもある。そこまで考えれば「タテマエトーク」が実はタテマエじゃなかったのではないかと斟酌したり忖度したりもできるのではないかと思うのです。ちなみに「『先生』は福沢先生しかいない」もタテマエです。世の中そんなものなのです。

実際のところは

まあ、前段は若干の誇張が混じっています。実際何を学問としていたかについては原文を読んでいただくのがいい。若干古語っぽい言葉も混じってはいますが、現代仮名遣いで書かれているのを読む限り、「学問のすすめ」はかなり平易な文章です。

人は生まれながらにして貴賤・貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり。

学問のすすめ

までたどり着くのにブラウザ半ページ、12文、学問とは何のことか、については、その次から書いてありますので。13文めと、そこからの5文ほどの例示を経て1文。そんな感じです。