ガパオ警察がやってくる、ヤァ、ヤァ、ヤァ

最近はシャレオツなカフェとかで出されることもあるし、たまにテレビで紹介されることもあるので認知度も高くなってきた食べ物に「ガパオライス」がある。
そして、おそらく、その認知のされ方はこんな感じだ ― 挽き肉がアジアっぽい味付けで野菜と一緒に炒められていて、半熟卵な卵焼きと一緒に白ご飯の上にかかっているやつ実際にcookpadで検索してみると、実に600件以上のレシピがそんな感じの作られ方をしている

この認知は大きく違ってはいないが、ある一点で大きく間違っている。それは、「ガパオ」の位置づけだ。
「ガパオ」はタイ文字では「กะเพรา」と書く。*1wikipediaを調べるまでもなく和名は「カミメボウキ」なのだが、もしかするとカミメボウキのほうが馴染みがない。とにかくこの香草と一緒に炒めたものが「ガパオ炒め」なわけで、入っていないのに「ガパオライス」とかいうのは微妙なのだが、この香草、名前に馴染みがないだけでなく実物についても馴染みがない。おそらくスーパーマーケットで「カミメボウキ」が売られているところを見た人はほとんどいないはずだ。

とは言うものの、この香草には別の呼び方がある。英語圏での呼び名「ホーリーバジル」だ。「holy」な「basil」。「バジル」ならちょっとしたスーパーマーケットでもたまに売られている。だから「ガパオ」が「バジルの一種」であることを知っている人は、クックパッドのレシピにもきちんと「バジルの葉」を入れている。その数およそ450件クックパッドのレシピの中に「バジル」が一言も含まれていないレシピが150件以上もあることにも驚きなのだが、話はここでは終わらない。

日本で売られている「バジル」は「スイートバジル」で、和名は「メボウキ」。wikipediaには「バジリコ」の名前で載っている。カミメボウキメボウキホーリーバジルとスイートバジル。似た名前だし、系統も似ているのだが、これら2つは別の植物なのである。

この辺について、詳しく書かれているサイトがある。詳しいだけでなく、書かれている回数も多い。「タイ料理の『ガパオ』ってなに?」「タイのハーブ『ガパオ(ホーリーバジル)』VS『ホーラパー(タイバジル)』を比較してみました」「タイ料理『ガパオライス』の『ガパオ』は『スイートバジルではなく、ホーリーバジルです』」と、2種類のバジルを比べるだけのエントリーだけでも3つあるうえに、ここはタイ料理をはじめとするエスニック料理を試食するブログでもあるのだ。タイ料理店で出ている「ガパオライス」の「ガパオ」の量にもこだわるし(お店でガパオを使っていないときにはマジギレすることもある)、全く使っていないコンビニフードなどに苦言を呈することもある。

実際、日本のエスニック料理店で「ガパオ」が実際に使われないのには仕方ない面もある。少し前に「馴染みがない」と書いたが、これがなかなか手に入らないのだ。香菜ことシャンツァイことパクチーはあまりにも普及しすぎて、いつの間にかタイ料理でも「え、そこに」と思わせるようなところにまで入りこんだけれど、素人がガパオを買おうとすると、アジア専門食材の通販にでも頼らざるを得ない。この辺は上記ブログの著者もある程度認めているようではある。また、自分も別の人から「スイートバジルで作ったってインスタントよりはうまいよ」と言われたこともあるし、それはそれで切ない。

そう、本当に、この「ガパオ」本来の認知されなさといったらない。クックパッドで検索すると、その数なんと17件。いくらなんでも少なすぎる。これ、レシピの一部に「ホーリーバジル」って書いてある件数だから「ホーリーバジルなしで作ってみました」も含まれての件数ということだしね。


しかし、そうなってくると「ガパオ」の意味がだんだん「アジアっぽい名前」以上の意味を持たなくなってくる。上げた写真は、某所での「ガパオ風ライス」の写真。目玉焼きの下にある挽き肉炒めにはガパオはおろか、バジルもほとんど入っていない。わかっていて食べればそこそこの味はあるんだけど、「風」つけてもゆるされるのかどうかはわからなくなってくる。
また、岩手県大船渡市のとあるアジア風料理店では「サンマガパオライス」なるものが作られているらしいのだが、ネットで調べてみてもホーリーバジルの雰囲気がない。いや、ガパオライスって合う合わないを別にすればガパオ以外の具はなんだっていいので、サンマをガパオ炒めしたっていいし、大船渡はサンマが名物だからサンマを使いたいとも思うんだけど、せっかくならガパオを使っていることもPRしてほしいところ。でもガパオ使ってるって書いてないと心配でしょうがない。

いずれこの事態を何とかするには、「ガパオを使っていないガパオライス」つまり「ガパオライスっぽいおかずかけご飯」については何か別の名前をつけなければいけないんだろうなと思う。もしかして手遅れなのかもしれないけれど、いい代替案があればまだ間に合うと思うんだ。

*1:タイ語でカバンも「ガパオ」らしいのだが「กระเป๋า」と、rの位置が違う(ただし、タイの二重子音のr(ร)はしばしば省略されるので読みが同じ場合がある)だけでなく、声調が違うのでそこで区別できるらしいことは最近知った。