ここ数日、つまり、"孫コピーの禁止"が、がCCライセンスの観点から見ると間違っている、ということを長々と検討してきた。
まずは、まとめ。
ここで注意して欲しいのが、CCのライセンスが付けられているのが、物理物としての書籍であるということである。またライセンスの中に、「継承」が付けられていないことにも注目して欲しい。
これらが何を意味するかというと、コピーするには物理物としての原本が必要であるということである。
クリエイティブ・コモンズに賭けた「コンテンツの未来」 (2/3)
まあこの文章は間違っている、ということで、その理由となる事実は以下の通り。
- CCライセンスの4条には、孫コピーにも自動的に許諾が与えられることが明記されている。*1
- しかし、CCライセンスには、元のCCライセンスと違うことを許諾できるmorePermissionsという仕組みがある。*2
- さらにしかし、CCライセンスの許諾範囲を狭めて特定のことを出来ないようにするためには、8条bの規定により個別の承諾が必要である。*3
結論としては、
「CCライセンスでどのような選択をしても、孫コピーを禁止することは出来ない」
ということである。この話はこれでおしまい。
ところが、これに関してちょっと派生した話があった。*4
あ。事の大元は、CCライセンスを付された著作物の一部をコピーした場合、それについても同様のCCライセンスが適用されるのかという問題のような気がしてきた。
http://d.hatena.ne.jp/himagine_no9/20070923/p3
これについての論点が3つある、ということは、昨日の日記で若干論じたのだけど、危険性を感じてちょっとお茶を濁したところがあった。
まあその辺を詳しく詰めればいいとは思うんだけど、まあこの辺はもしかして誰か詰めてるんじゃない?それを探すことにして、今回はこの辺について詳しく考えることはやめようかなと。
http://d.hatena.ne.jp/shidho/20070923/p1
探していたら、"改変禁止"*5、というのは、CCを実際に使っている人の間でも認識が違ったのだった。それには「編集著作物」と、「二次著作物」の扱いが関わってくる。
一部利用に分かれる見解。
さて、ポッドキャストはそれだけで著作物にならない。喋りだけなら。その喋り手の言語が著作物なだけ。けど、ジングルを入れたり、曲を流したり構成を考えたり、創作性があるじゃないか、と言える。
けど、それはパーツパーツに著作者がいるはず。その著作物の寄せ集めだ。それを編集して集めただけ。まあ、素材の選択や配列の仕方(重ねるも含めて)、構成などで創作性がないとは言えない。まあ、それは編集著作物だな。
ポッドキャストは著作物じゃない
若干タイトルが誤解を招きかねないのだけど、ここで言っているのは「ポッドキャスティングは編集著作物である」ということ。
編集著作物というのは、個々に著作権のある*6作品を切り貼りして、一つの著作物として完成させるということになる。当然切り貼りの際に一部利用は前提とせざるを得ないので、この立場を取る限りは一部利用は前提となる。
改変不可の場合、そのコンテンツ丸まるそっくりそのまま使わなければならないので、
Creative Commonsについて考える
例えば音楽を部分的に使うとか映像を部分的に使うとか写真をリミックスするとか、そういうことは全て禁止。
こっちはわかりやすいね。こちらの立場は一部利用はダメ、としている。
見つかったのはこれくらいだけど、作る側、使う側、作られたもので新しく作る側、いろんな立場でいろんな見解がありそうなのは確かだ。
編集著作物の扱い。
CCの有無を前提にしない著作権法の世界でも、編集著作物は過去に争いになっている。編集著作物に創作性があるかないか、の争いは興味があるなら読んでおいたほうが良いかもしれない。けど、ここではあまり触れない。というのは、CCライセンスでは編集著作物に創作性があるかないかなど気にしていないからだ。
「二次的著作物」とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、または脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。ただし、編集著作物又はデータベースの著作物(以下、この二つを併せて「編集著作物等」という。)を構成する著作物は、二次的著作物とみなされない。また、原著作者及び実演家の名誉又は声望を害する方法で原著作物を改作、変形もしくは翻案して生じる著作物は、この利用許諾の目的においては、二次的著作物に含まれない。
CC第1条aより
と、CCライセンスは、「編集著作物は二次著作物ではない」ということをその条文の中ではっきりうたっている。
なので、"改変禁止"を入れたCCライセンスの作品でも、編集著作物としてなら普通に利用できるわけだ。問題は、ある利用方法が編集著作物か二次著作物か、という扱いになる。二次著作物の定義は上に引用したように、
- 翻訳
- 編曲
- 変形
- 脚色
- 映画化
- 翻案
である*7が、一部利用の場合は切り貼り程度で、そのほかの変更があるとは考えにくいので、この中の"変形"だけが問題になろう。
ちなみに"変形"の例として良く上がるのは、
- 彫刻などを写真に撮影する。
- 二次元のイラストをフィギュア化する。
あたりである。
で、二次著作物かどうかについても、実は既に裁判になっているものが存在し、しかもその中では明確に基準を示していたりする。
もとは「アンコウ行灯事件」というものの判例なので、そのタイトルで検索すれば判決まで全部読めるのだが、今回はそれ以外にもわかりやすい説明をしている以下のサイトから引用。*8
(アンコウ行灯事件 京都地裁平成7年10月19日)
(1) 既存の著作物とまったく同一の作品を作り出した場合
(2) 既存の著作物に修正増減を加えているが、その修正増減について創作性が認められない場合
(3) 既存の著作物の修正損減に創作性が認められるが、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われるに至っていない場合
(4) 既存の著作物の修正増減に創作性が認められ、かつ原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしまっている場合【財産権】
(1)(2)→複製権侵害で違法
(3)改作利用権の侵害(27条)で違法→しかし二次著作物となる
(4)著作権侵害にならない→独立の新たな著作物となる【人格権】
(2)(3)著作人格権侵害
(4)侵害にならないこのように一応基準がありますが、これでも一般の人々が二次著作物か複製かについては明確に分けることは難しいと言えるでしょう。ただひとこと言えるとすれば
二次著作物について
「二次著作物は非常に狭い範囲でのみなりえる」
という事が言えると思います。
もし二時著作物のつもりで作成した著作物でも、二次著作物性を有していないと判断されれば上記のように単なる複製になり、当然違法です。
ここで(2)の場合、それを阻むのは複製権と著作者人格権なのだが、"改変不可"は複製権を基本的に無条件で許可しているからCCライセンス上は侵害にならないし、著作者人格権については
許諾者は本作品に関して、この利用許諾に従った利用については自己が有する著作者人格権及び実演家人格権を行使しない。
"改変不可"ライセンスの第3条
となるので、これでも阻むことができない。*9ちなみに写真のトリミングも"著作者人格権の侵害"ということで不許可になる、という見解があったりする。*10つまり、"変形"と"加工・変更"については、主となる扱いが違うわけだ。
これらはたぶんCCライセンスの側から見ると、"改変不可"を条件に加えていても、(2)に当てはまりそうなかなりの場面で二次使用が可能になるような気がしているのだが、どんなものだろうか?*11
蛇足ながら、
You may not sample or remix this music.
これはわかるかともいます。サンプリングやリミックスには使ってはいけないということです。You may not alter, transform, or build upon this music (this includes synching the music to a moving image).
音楽に使われているCreative Commons の考え方
変更したりすることもできません。(動画のBGMとして使うこともできません)
こちらでは一部利用を禁止しているように見えるが、これは上記アンコウ行灯事件の判例で言えば(3)に当たるのではないかと思う。動画のBGMとして使えない、というのは誤訳であって、synchingがあるので、"動画と同期するような形で音楽を使ってはいけない"の方が正しいのではないかと。
付記
今までいろいろ書いてきたが、書き忘れていたことが一つあった。私は法律の専門家ではないので、今までに書いてきたことには法的な裏付けを与えられない。IANALっていうの?それ。
*1:http://d.hatena.ne.jp/shidho/20070918/p1
*2:http://d.hatena.ne.jp/inflorescencia/20070920/1190220064
*3:http://d.hatena.ne.jp/himagine_no9/20070923/p5
*4:ただし、この話そのものは「気付かないのはライセンスを併記しない場合だけだが、併記しないコピーは許諾条件違反で無効」ということでけりがついている。話がコメントやら別エントリやら散らばっているので注意。
*5:古い言葉では派生禁止
*6:ないものもある
*8:引用時に丸数字をカッコ書きに変更しています。最近はこんなことしなくても大丈夫なのかな?
*9:著作者人格権の不行使については契約上よろしくないのでは、という見解はあるそうではある
*10:クリエイターのための知的財産権ハンドブックp92,ISBN:4766107373
*11:"加工・変更"が"変形"ではないと全ての場合に言えるわけではない、という意見が考えられるだろうか